60枚に囚われるな

MTGにおいては、しばしばこのような言葉が使われています。

「75枚で1つのデッキである」

これは、メインボード60枚にサイドボード15枚を加えた75枚で、1つのデッキとなることを示しています。MTGはデッキの構築において、

構築およびエターナルにおいては、デッキの最小枚数は60枚であり、かつ英語名が同名の基本土地でないカードは、1つのデッキに5枚以上入っていてはいけない

プレイヤーは各々、15枚以下のサイドボードを用意してもよい。また、サイドボードを使用しないことを選んでもよい。

(※MTG Wikiより引用)というルールがあります。

これに従い最小のメインボード及び最大のサイドボードで構成すると、75枚になるため、これを1つのデッキと呼ぶ訳です。

75枚は祝福されし完成か?

しかし、ここで一つ疑問が浮かびます。サイドボードを15枚で構成するのは当然でしょう。環境に存在する様々なデッキと対峙するためには、より多くの武装を用意するべきですから。ですが、メインボードは60枚が最適なのでしょうか?今回は、そんなメインボードの枚数について検討していきます。

確率のゲーム

MTGというゲームに必ず付いて回るもの、その1つが確率です。

最も身近なものは、次に引くカードの確率でしょう。

例えば、初手を少ない土地でキープして、その後の展開に支障が出ないか?そういった問題を、デッキに存在する土地の枚数やキャントリップ呪文のような潤滑剤、土地を引けない場合に唱えられる呪文の枚数などから、計算してキープするべきかを決めるのです。

デッキを使い込むほどに、無意識の内に行ってしまう作業のため、あまり意識されることはないでしょう。

初手以外でも、攻撃の有無、フェッチランドの起動、打ち消すべきか、除去すべきか、あらゆる場面で確率は付いて回ります。

これらは、実際には相手の手札、行動によっても左右されるため、おおよそ正解を導き出すのは不可能なものですが、その上で自分にできる範囲での確率を最大化することで、ゲームの勝利へ近付いていくことができます。その中でできる手立ての1つが、メインボードを60枚で構成することだとされているのです。

デッキ内の特定のカードを引く確率は、分母になる数を最低の60にすることで最大化できるのはまず間違いありませんが、果たしてそれは常に正解なのでしょうか。

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61枚のアブザン・コントロール

市川ユウキ – アブザン・コントロール
(スタンダード)グランプリ・上海15(優勝)
– メインボード(61)-
– 土地(24)-
2《
2《平地
4《吹きさらしの荒野
4《砂草原の城塞
4《疾病の神殿
3《静寂の神殿
4《ラノワールの荒原
1《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ
– クリーチャー(22)-
4《サテュロスの道探し
4《棲み家の防御者
4《クルフィックスの狩猟者
4《死霧の猛禽
4《包囲サイ
2《黄金牙、タシグル
– スペル(15)-
4《思考囲い
4《アブザンの魔除け
2《英雄の破滅
2《命運の核心
3《太陽の勇者、エルズペス
– サイドボード(15)-
3《アラシンの僧侶
3《究極の価格
3《悲哀まみれ
2《ドロモカの命令
2《世界を目覚めさせる者、ニッサ
1《強迫
1《真面目な訪問者、ソリン

メインボードの60枚神話に衝撃を与える結果が、6年前のグランプリ・上海2015にて現れました。日本人プロプレイヤーである市川ユウキプロが、61枚のアブザン・コントロールで優勝されたのです。

このデッキリストは、国内・海外を問わず広く議論がなされましたが、61枚目の真実について市川プロ本人からの説明がBIGWEB上にてなされました。

最後まで《命運の核心》と《黄金牙、タシグル》の2枚目は減らす候補ではあったが、《サテュロスの道探し》と《棲み家の防御者》のパッケージが存在する関係上、デッキに1枚か2枚かという差は、ゲーム中に唱えられるかどうかに大きく影響すると考えた為、やはり抜けず。61枚でMagic Onlineで30マッチ以上こなしたが、結局結論は出ず、私の中で”61枚目”は見つからなかったので、61枚で出場することとなった。
出場した後も未だ結論は出ず、61枚のままだ。

(※市川ユウキのGP上海調整録より引用)

特定のカードに依存していないデッキでは、必ずしも60枚にこだわる必要がないと証明されたこの構築及び説明は、60枚で構築することが絶対と思われていた神話を打ち砕くには十分過ぎるものでした。

この考えは、モダンにおいてもジャンドやアブザン、青白コントロール等で通用するものでしょう。では、特定のカードを引きたいデッキでもそうなのか?それがそうとも限りません。

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80枚のカスケードクラッシュ

taliesinh – 4cカスケードクラッシュ
Modern League – 2021/10/29(5-0)
– メインボード(80)-
– 土地(32)-
1《枝重なる小道
1《繁殖池
4《溢れかえる岸辺
1《
1《神聖なる泉
1《
1《ケトリアのトライオーム
4《霧深い雨林
1《
1《平地
1《ラウグリンのトライオーム
2《反射池
1《河川滑りの小道
1《聖なる鋳造所
3《沸騰する小湖
1《蒸気孔
1《踏み鳴らされる地
1《寺院の庭
3《吹きさらしの荒野
2《樹木茂る山麓
– クリーチャー(20)-
4《厚かましい借り手
4《激情
4《創造の座、オムナス
4《断片無き工作員
4《孤独
– スペル(28)-

4《時を解す者、テフェリー
4《衝撃の足音
4《火 // 氷(Fire // Ice)》
4《否定の力
4《プリズマリの命令
4《暴力的な突発
4《献身的な嘆願
– サイドボード(14)-
4《忍耐
4《活性の力
3《神秘の論争
3《黒曜石の焦がし口
– 相棒(1)-
1《空を放浪するもの、ヨーリオン

メインボードを80枚で構成し、相棒に《空を放浪するもの、ヨーリオン》を備えたカスケードクラッシュです。通常は、緑青赤のティムールカラーで構成されるカスケードクラッシュですが、このリストでは白を加え、《時を解す者、テフェリー》や《創造の座、オムナス》のような強力なカードを使用可能としています。

このデッキが興味深いのは、通常の60枚のものよりも《衝撃の足音》を続唱させる確率を上昇させている点です。

通常のティムールカラー・60枚のリストでは続唱させるための呪文として、《断片無き工作員》と《暴力的な突発》の2種計8枚が採用されます。これは、8/60で約13.3%です。対して、この4色・80枚のリストでは《献身的な嘆願》を加えることで3種計12枚が採用され、その確率は12/80できっかり15%です。当然、《衝撃の足音》は4枚までしか採用できないため、こちらを引いてしまう確率は下がっています。

衝撃の足音》については、1ターン目に待機するプレイも有効であるため、必ずしも上記の結果が最適とは言えませんが、少なくともデッキのコンセプトである《衝撃の足音》を続唱するという結果を導く確率が上昇していることは間違いありません。

80枚になったことで《空を放浪するもの、ヨーリオン》という相棒まで付いてくるため、《創造の座、オムナス》や《孤独》《激情》のETB能力を使いまわすプランも加わっており、カスケードクラッシュというデッキの方向性の1つを感じさせる素晴らしいアイデアであると言えます。

これにより、特定のカードに依存しているリストでも、その依存の在り方によっては60枚だけが正解でないことが示されています。

60枚だけが正解ではない

ほとんどの方が、恐らく無意識に信じ込んでいるであろう、60枚こそがメインボードの最適解であるという神話は常にそうとは限りません。

もちろん、基本的には60枚でメインボードを構成することが最適である場合が多いでしょう。タイトなゲーム展開の多いモダンでは、サイドボード後のゲームを考えれば、なおのことです。サイドボードに用意したカードを引ける確率は、デッキ枚数が増えれば増える程下がってしまいますから。

しかし、だからと言って必ずしも61枚目以降のカードの存在を嫌わず、時にはその常識を打ち破ることで、良い結果に結びつくこともあるかもしれません。もし次の大会に出るデッキを検討する際には、その可能性を検討してみても良いのではないでしょうか?

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